まずはじめに、この土地との出会いについてお話しします。
秋田市中心街からほど近い人気のニュータウン分譲地 桜台ニュータウン。
僅少となってきた残り区画のなかでアンサーの住まい8棟が立ち並ぶストリートに隣接する三角状の土地が以前から気になっていました。
ある日その区画が整地され分譲地として販売されることになり、競合による抽選を覚悟しながら申し込みました。
南側に緑豊かな里山の風景が広がる素晴らしいロケーションの土地だけに、多くのビルダーが応募してくることが想定され、競合による抽選を覚悟していたものの、希望者は私たちだけ。拍子抜けしながらも、すんなりと入手することができました。
「魅力的な土地なのに、どうしてウチだけだったのか…」、「土地の形状がすべてじゃないなのに…」、「ロケーションはあまり重要視しないのかな…」などと推察しながらも、いずれにしても安堵しました。
この後、まさにこの土地が私たちの理想のプランニングを叶える鍵になるのです。
私たちには、“平屋暮らしが叶う木の家”というモデルプランがあります。
夫婦二人の基本的な暮らしはワンフロアで叶い、2階は子ども部屋や書斎、客間や和室、さらにはフリースペースなど、住まい手によって自由に変えられるプランです。
「夫婦の暮らしはワンフロアで」、「平屋がいいけど予算が…」、「平屋にするには土地の広さが…」といった思いに寄り添ったプランとして選ばれてきました。
この“平屋暮らしが叶う木の家”というモデルプランが既にあったこと、そして、多くの方が平屋暮らしに憧れを持っていることを感じていましたので、この土地には完全な平屋のコンセプトモデルハウスを建てようと思いました。
しかもそれは、“夫婦二人だけの平屋”。
潔く、たまに訪れる(めったに来ない)来客のために「あったらいいな」を用意しておくことはせず、その代わり柔軟に対応できる自由度の高い空間を残した基本的に夫婦二人だけの暮らしに徹した住まいです。
旅先でいつも感じることがあります。
外で眺める雄大な景観は素晴らしいものですが、それに加えて、レストランで食事をしながら、お風呂に浸かりながら大きなガラス越しに眺める景色は、同じものでもまったく違った趣があるものです。
時を忘れてゆったりとくつろぐガラス越しの眺望、そんな風景を観るときには、やっぱり同じ方向を向いていたい…。
つまり、「並んでいたい」と思います。
一方で、美味しいものをいただく時や語り合いたいときには“向き合っていたい”と思うものです。
そんな思いに少しでも寄り添える設えがあってもいいんじゃないか…、しかもそれが旅先ではなく、普段の暮らしのなかでなら、日常はもっと素敵な時間に変わっていく…。
そこで、今回の設計テーマは、
「並んでいたい時間、向かい合っていたい時間」に決めました。
このテーマを実現するためには、横に並ぶことも、正面に向き合うこともでき、さらに、座して並び、向き合うことも可能な、高さが調整できるそんなダイニングテーブルがどうしても欲しいと思いました。
もちろん既成のものはないことがわかっていたので、寸法や形状、デザイン、素材、機能性に至るまで、すべてを一から設計して、かねてから付き合いのあった家具工房に相談。「できます!」の返事をもらい、私たちが考える理想のダイニングテーブルができると分かった瞬間に、プランは完成に向けて加速していきました。
設計を進めるにあたっては、南側に広がる里山の風景を大きなピクチャーウィンドウの中に切り取りたいと考え、特に窓のレイアウトを意識しながらプランを進めました。
さらに「キッチンやダイニング、リビングではこんな時間を過ごしてほしい」、「窓からこんな景色を見てほしい」、「こんな動線があったら便利」等々の具体的に盛り込みたい夫婦の暮らしのシーンを整理しながらプランの精度を高めていきました。
プランが佳境になった頃、「何かが足りない」と感じるようになりました。
「夫婦二人の暮らし」に徹する住まいであるからこその自由、面白さ、二人の距離感を考えた設えがほしかったのです。
プラン完成までのタイムリミットが迫るなか、改めて“夫婦の平屋とは何か”を考えました。
どんな暮らしをしてほしいか、どんな時間を過ごしてほしいか、妻の友人が遊びに来たときに夫はどう過ごすか、ちょっとギクシャクしたときにどんな場所が必要か…。
ウッドデッキをセカンドリビングのように使ってもらうためにも、一人の時間を持ちたいときのためにも…。
そこで行き着いたものが“離れ”でした。
母屋とつかず離れずの“離れ”がちょうど良かったのです。
さらに「夫婦が同じフロアで暮らすからこその距離感」として、視線の抜けは変わらず開放的でありながら、暮らしのシーンによって間仕切りできるような“ガラスの建具”も設えました。
仕上がりの外構・植栽も最後の大きなポイントでした。
南側ウッドデッキの中心には“エゴの木”を。
その花言葉は「壮大」。
まさにイメージにピッタリのシンボルツリーとなりました。
夜にはウッドデッキもライトアップされ、一日の時間の流れを贅沢に感じられる演出がここに完成しました。
「もうひとつのOur story」。
この物語を紹介したかったのは、私たち造り手が、どういう姿勢で住まいと向き合っているのかを知ってもらいたいと思ったからです。
高品質、高性能な住宅であることはもちろん、土地の特性を暮らしに取り込むこと、この先もずっと使いやすい動線であること、窓から見える景色、風の通り、陽の入り方、キッチン、ダイニング、リビング、さらにはウッドデッキでの時間の過ごし方、空間と距離感をコントロールする建具、暮らしのシーンを広げる家具…。
設計者の役割とは、住まい手が住んだ後に気付く心地良さを先回りして考えことだと思います。